第79章 真田幸村の最期
男「無駄だ。助からないことぐらい見ればわかるだろうに…」
男は手拭いを押し当てている幸村の腕をどかそうとしたが、指一本動かせず苦笑した。
幸村は少しでも身体の負担がなくなるだろうかと、男の鎧を脱がせてやった。
男の鎧も幸村のものと同じくらい傷ついていて、するりと脱がすことができた。
ぼうぼうと伸びている草むらにドサっと音をたてて落ち、鎧は見えなくなった。
幸村「死ぬなっ、一人でも多く……生き残れ!」
幸村の脳裏に次々と倒れ伏す味方の姿が浮かぶ。
唇を引き結び、目頭が熱くなるのを必死でこらえた。
その様子を見て男は口元を緩めて言った。
男「幸村は若い時から滅法強かったが、本当は戦なんて嫌いだったろう?
戦わなければ守れないなら刀を取るって……お前の人生は戦続きで不憫なもんだ。
俺はいいから顔を洗ってこい。血みどろで化けもんみたいだ。
この神社の裏手を少し行くと川があったはずだ」
幸村「このくらい平気だ」
そう言いつつも左目に入りこんだ血で目が開かなくなっている。
ゴシゴシ擦ったところで血が落ちるわけなく、幸村は煩わしいというように頭を振った。
男「顔洗ってこい。お前が戻って来るまでは生きていてやるから」
幸村「俺より年若のくせに縁起でもねぇこと言うな。
生きろって言ったばかりだろ」
男は適当に返事をして『行け』というように手をひらひらさせた。
幸村「…いってくる。勝手に死ぬなよ」
幸村は槍を杖がわりにして神社の裏手へとゆっくりと歩み去った。