第79章 真田幸村の最期
(第三者目線)
西暦1615年 夏
―両軍激しくぶつかり合った戦場から少し離れた場所にて
撤退を余儀なくされた将が一人、足を引きずりながら歩いていた。
齢は40後半と言った頃か…頭の切り傷から流れる血が、顔や首を汚している。
将の鎧は戦の激しさをあらわすように酷く損傷し、だらりとぶら下がっているだけで用をなさなくなっていた。
?「ったく、あと少しで家康の首を取れたのによ。
しかしあいつ、年食ったら急に狸親父になったな。別人みたいに恰幅よくなりやがって」
本陣に突撃した際に見かけた徳川家康の姿を目にし、男は違和感を覚えた。
男は若い頃……まだ織田信長が生きていた頃に行商に扮して安土に潜入したことがあった。
城下で見かけた徳川家康は線が細く、いけ好かない、すまし顔だった…はず。
?「っと…」
道端の石に足を取られ、手にしていた十文字槍を地に着けて転倒を避けた。
怪我もあるが体力が底をついている。
男、真田幸村は偶然たどりついた神社で腰を下ろした。
幸村「はっ、見事にやられちまったな」
重たいだけで用をなさない赤い鎧を脱いだ。
脱ぐ、というより滑り落とすという表現が正しい。
身軽になった幸村は一息つき、ふと見ると草むらに負傷し、倒れている男が見えた。
身に着けている鎧から味方のものだ。
幸村「大丈夫か!?しっかりしろ」
声をかけてみると顔に見覚えがあった。
倒れていた男は苦悶の表情を浮かべ、唸り声を上げながら目を開けた。
男「う……なんだ、幸じゃねぇか」
幸村「お前っ、この戦に来てたのか!?
刀もろくに使えねぇくせに、城に残れって言っといただろ!」
幸村は男を抱き起こした。この男は遠縁にあたる武士で幼馴染でもある。
冬の大阪での戦で傷を負い、刀を振れなくなっていた。
男「ふっ、出ないわけにいかねぇだろ。あの憎たらしい徳川に天下を取らせてたまるかよ。刀は無理だが、鉄砲隊に紛れ込んだんだ。
俺は城でアホみたいに待っているよりも、戦場で戦って死にたかったんだよ」
男は全身を血で赤く染めているにもかかわらず、満足そうに笑った。
幸村「っ、無駄に命を散らそうとすんな、馬鹿野郎!」
一番深手と思われる首筋に手拭を強くあてながら幸村はどなった。