第78章 過去からの来訪者
「走れないって不便だな」
やっと草履が砂浜の砂を踏みジャリ、ジャリっと音がなった。
天気は良いけど、海は白波を立てていて風も強かった。
ゴーゴーと音をたてて風が吹き、着物の裾や袂が風でバタバタとはためいた。
前髪はさらわれ、おでこ全開だ。
「あの…大丈夫ですか?」
一番近くに倒れていた男の人に声をかける。
身なりが他の5人より良いからまとめ役なのかもしれない。
返事がなく、点々と倒れている人達に目をやる。
どの人も着物は海水でびしょ濡れで、砂がついて汚れている。
砂が肌にバチバチと当たって痛い。
口を開ければ砂が入ってきそうだ。
「あれが船の……」
近くには船の残骸のようなものも流れ着いていた。
帰ったらすぐにお湯を沸かさなきゃなんて考えていると、声をかけた男の人が唸り声をあげた。
男1「ゔぅ、ここは……?」
「ここは蝦夷です。あなた方はどこから来たのですか」
男1「俺達は大阪から…太閤様の命で……」
「え?太閤様って、ひでっ……豊臣秀吉様ですか?」
変だ。秀吉さんはとっくに亡くなっているはずなのに。
身なりを確認すると男の人の身に着けているものに、豊臣家の紋が入っているのが見えた。
(どういうこと?)
キツネに包まれた気持ちになる。
男1「そうだ。殿からの命を受けて蝦夷に向けて航海していた。俺の他に助かった者は居るか?」
「はい、他に5人倒れています。今、助けを呼びに行っていますから、もう少し我慢してくださいね。どこか痛いところはありますか?」
男1「まだ身体が動かせねぇから、怪我してるかどうかもわかんねぇな。
だが水が欲しい。昨夜は海の水をたらふく飲んじまったから」
散歩の途中で飲もうと思っていた竹製の水筒を取り出した。
「少し身体を起こしますね」
男の人の背に手を回し、水を飲みやすいようにしてあげた。
男1「あんた、身重だったんだな。
こんなことをさせてすまない」
「ふふ、気にしないでください」
安定期にはいってからは農作業もしていたし、このくらいどうってことない。
男の人は私を眩しそうに見て名前を聞いてきた。