第78章 過去からの来訪者
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妊娠が判明した時のことを思い出して、くすりと笑いがこぼれた。
喜んでくれる人が居る。それだけで嬉しい。
「布おむつはいっぱい作ったし、後は何を作らなきゃいけないんだったかな」
産着を畳み、必要な物をメモしていた紙に目を通す。
少しずつ物が揃っていく、些細なことが優しい気持ちにさせてくれる。
謙信様はもちろん、龍輝と結鈴、信長様達もとても喜んでくれた。
心配していた悪阻は寝込む日があったものの、予想していたよりも軽く済んだ。
一度目のことがあったせいで信長様と光秀さんがとても心配してくれて、とにかく温かくして寝ていろと、子供達の相手をしてくれたり、慣れない家事を手伝ってくれた。
洗濯物を畳んでくれたのはありがたかったけれど、謙信様の足袋が信玄様の方に行っていたり、龍輝のパンツが佐助君の方へ行ったりと、皆が文句を言いながら家を行き来していたのには笑わせてもらった。
信長様が『夜は褥に一緒に入り、温めてやれ』なんて言ったから、謙信様に勘ぐられてしまったけど…。
「あとは新しいさらしを買い足さなきゃいけないなぁ。
これはあとで誰かにお願いするとして、ちょっと散歩に行こうかな」
大きくなったお腹に手を添えて立ち上がった。
謙信様が居ると部屋から出してもらえないので、散歩はいつも謙信様が出かけている時間だ。
「蘭丸君、居る?」
蘭丸「居るよ。散歩の時間だね、今日はどこに行こうか?」
謙信様が傍に居られない時は、申し訳ないことに世話役として蘭丸君か佐助君が交代でついてくれていて、今日は蘭丸君だ。