第78章 過去からの来訪者
龍輝と結鈴の時は、妊娠は突然の出来事で謙信様に相談することもできなかった。
喜ばしいことのはずなのに、謙信様にも、誰にも打ち明けずに現代へ帰った。
双子です、と言われた時も凄く嬉しかったのに…一人だった。
エコーで姿を見て、大きくなっていく姿に感動しながらも、一緒に喜んでくれる人が居なくて、打ちひしがれて悲しんでばかりいた気がする。
ここでは医療機器がないからお腹の中を見ることはできないし、様々な検査を受けることもできない。
『気をつけて暮らす』ぐらいしかできない心配はあるけど、
謙信様が居てくれるなら
一緒に喜んでくれるなら
これ以上のことはない
前の妊娠の時と今を比べて、涙が溢れた。
謙信様はいっぱい待ってくれたし、我慢もしてくれた。でもそのおかげで今、手放しで喜べる。
「謙信様っ、ありがとうございます!
私、元気な赤ちゃんを産みますねっ!」
鼻をグスグス鳴らしながら言うと、謙信様は身体を離して涙を拭ってくれた。
覗き込んでくる色違いの目が、優しく細められた。
謙信「ありがとうは俺のセリフだ。
別々に在る俺とお前を、ひとつにしてくれたのだから…」
「ふぇ、そんなこと……ない、です。
謙信様の方が、頑張ってくれましたよ」
謙信「いや、お前だ」
「ふふ、謙信様です!」
戯れの喧嘩をしながら、私達は場所を忘れて口づけを交わした。
私の嬉し涙を舐めたせいで、謙信様の舌はほんのりしょっぱかった。