第78章 過去からの来訪者
診察が終わって建物を出る前に謙信様に引き留められた。
謙信「温かくしろ」
襟巻をぐるぐる巻きにされた。
羽織紐をきっちりきつく結ばれ、その上から雪除けの蓑(みの)をつけられる。
「ひ、ひとりでできます」
謙信「やらせてくれ…、………、舞……っ」
蓑の紐を結んでいた手がとまり、謙信様が言葉を詰まらせた。
止まった手を見ると、少し震えている。
「謙信様…?」
震える手から、顔へと視線を移動させたけど不意に抱き締められて表情は見えなかった。
紐を結んでいる途中だった蓑が、床にバサリと音を立てて落ちた。
「謙信様…」
抱き締めたまま何も言わない謙信様が心配になって呼びかけた。
力いっぱい抱きしめてくれているけど、お腹は圧迫しないようにしてくれている。
首元に顔を埋めらているので、サラサラの髪が当たって少しくすぐったかった。
謙信「舞…以前はお前が愛しくて死にそうだと言ったが、今は嬉しくて死にそうだ」
ぎゅうと腕に力がこもって、謙信様の想いの強さが伝わってきた。
喜んでくれているんだと、私も抱きしめ返した。
「私も、望み、望まれてこの子を授かることができて、凄く嬉しいです。
謙信様のお傍でこの子が大きくなっていくのを一緒に喜べることが…幸せです」