第78章 過去からの来訪者
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雪が融けるまでは隣町の産婆さんの所へは行けそうもなかったので、生理予定日から1か月くらいした頃、港町のお医者様の所へ行った。
まだその頃は雪が深くて、謙信様が抱いて運ぶと言って佐助君に全力で止められていた。
万が一でも転ばないようにと謙信様と佐助君が両手をひいてくれて、逆に佐助君が少し滑った時は『もう一度修行しなおしてこいっ』と謙信様が本気で怒っていた。
町のお医者様は専門外とのことで触診はなく、脈をとられた以外は全て問診だった。
こんなんで大丈夫なの?と不安になったけど、この時代では普通のことらしい。
でも普通じゃなかったのは、問診中、謙信様が診察室にずっと立って待っていたことだ。
お医者様が私に触れる度にビシビシと鋭い視線を送ったので、お医者様はすっかりふるえあがってしまった。
謙信様曰く、身分が高い人の奥さんであればあるほど、医師でさえ身体に触れるのは禁忌だそうだ。
私としてはしっかり診察してもらいたいところだけど…。
医者「お、おめでとうございます。
身籠っていらっしゃいますよ」
若干緊張顔で、お医者様が言ってくれた。
「ほ、本当ですかっ?」
謙信「っ」
謙信様が居る方を向いて、喜びを伝えあった。
(どうしよう!すごい嬉しいっ!!)
現代に居た頃から望んでいた赤ちゃんを、やっと…授かれた。
爆発的に広がった喜びに、胸がいっぱいになった。
(謙信様との赤ちゃんが、ここに居るんだ…)
お腹に触れた手は嬉しすぎて震えていた。
医者「葉月(8月)か長月(9月)頃だろうと思いますが、詳しいことは産婆さんに診てもらってください。
生憎この町にはいないので、雪が溶けたら隣町に行ってください」
産婆さんの家の地図を渡された。
「次はいつ来れば…」
現代の健診の感覚で聞いたら『ん?』という顔をされた。
医者「特に変わったことがなければ安静にしていれば良いですよ。
身重の身体で出歩くのは危険ですから」
「はい」
この時代の妊婦ライフはなかなかスリリングになりそうだ。
とにかく自己管理を徹底するしかないみたいだ。