第78章 過去からの来訪者
赤ちゃんを授かったかもしれない。
期待で胸が騒がしくなる。
「でも…まだわかんないよね。念のため、今のうちにたくさん小物を作っておこう」
違ったら悲しいから、過剰に期待しないでおく。
ここ半年は『もしかしたら』『今度こそ』そんな期待をする度に生理がきてしまい、ガッカリしていたから…。
けれども備えておくに越したことない。針仕事が出来なくなった時を仮定して、急いで布を選びにかかった。
謙信「舞、入るぞ」
「はい、どうぞ」
勢い込んで取り組もうとした矢先に謙信様が部屋を訪ねてきた。
謙信様は広げられた布類を無駄のない動作で避けて歩き、正面に座った。
ずっと外に居たはずなのに鼻や頬も赤らんでいないし、雪で髪が濡れている気配もない。
(いつも完璧なんだもん、素敵だなぁ)
本当にこの人が私の夫なのかと、未だに思う。
謙信「今日の雪かきは終わったぞ。家同士は滞りなく行き来できるだろう。
龍輝と結鈴が雪だるまを作ったから見に来て欲しいと言っていた」
「ふふ、わかりました。タイミングが良いので今見に行こうかな。
あ、でも謙信様は私にご用事でしたか?」
謙信「舞…」
手招きされ、膝に座れという動作をした。
嬉々として謙信様のお傍に行き、膝の上に座らせてもらった。
(あったかいな)
包み込むように腕を回されてホクホクしていると、謙信様は心配顔で覗き込んできた。
謙信「舞、身体は大丈夫か。月のものがまだきていないだろう」
(私でさえ今気づいたのに……鋭い)
謙信様は過去の出来事を余程気にしているようで、私の身体の状態をしっかり把握している。
時々、当の本人さえ気づかないことまで察している時があった。