第5章 看病三日目 護身術と誓約
にわかに信じられないといった表情だ。
私は佐助君の羽織をギュッと握りしめて頷いた。
「ええ、本当です」
謙信「……」
沈黙の後、謙信様の刀が男の首から離れた。
謙信「年明け早々、俺が直々に軒猿全員を鍛え直す。
女に投げ飛ばされるような腑抜けが今後出ないようになっ」
一層低くなった声に殺気がこもったのがわかった。
佐助君の先輩が身を翻してその場を飛びのくのと、謙信様の左手の短刀が空を切ったのは同時だった。
(右手は刀をつきつけたままだったし、短刀をいつ抜いたのっ!?)
物騒な状況にオロオロしてしまう。
佐助「大丈夫。あれは謙信様にとっても、俺達軒猿にとっても日常茶飯事だ」
佐助君が言った通り、謙信様はその一太刀だけで短刀と刀を仕舞い、佐助君の先輩も再度跪いた。
謙信「急ぎの書簡とやらをよこせ」
??「はっ」
謙信様は書簡をその場で開いて読むと、
謙信「すぐに返事を書く。しばらくここで待て」
と言って囲炉裏の傍に座り、筆を手に取った。
佐助君の先輩は微動だにせずそれを見ている。
もう危険はないと判断して佐助君に声をかけた。
「佐助君、ありがとう。体辛いでしょう?横になって?」
佐助「ああ、そうさせてもらおうかな」
佐助君は火照った顔でゆっくりと体を横にした。
布団を掛けてあげた時に、佐助君が『君が先輩を投げ飛ばすところ、見逃したのは残念だ』と耳打ちしてきた。
「恥ずかしいから言わないで」
首を横に振った折に手が緩んで、借りた羽織がずり落ちた。
鎖骨や胸元に空気があたるのを感じて慌てて隠した。
佐助「っ!君がそのままだと熱が上がりそうだ。
隣の部屋で着物を直しておいで」
「え、でもあそこは謙信様が寝ているお部屋でしょ?
勝手に入ったら怒られないかな」
謙信「かまわん、さっさと行ってこい。
その格好でウロつかれては目障りだ」
「は、はいっ」
突如会話に入ってきた謙信様に言われて、そそくさと部屋に入って戸を閉めた。