第5章 看病三日目 護身術と誓約
「そ、その人がいきなり部屋に入ってきて…」
混乱する頭でなんとかそれだけ告げた。
謙信様は私の乱れた姿を見ると素早く戸を閉めた。
二色の瞳が獰猛な輝きを放ち、腰の刀がスラリと引き抜かれた。
男は冷たく光る刀身を向けられ身動きできないようだった。
(も、もしかして殺しちゃうの!?)
『やめてください』と叫ぼうとしたけど佐助君に口を覆われて止められてしまった。
(どうして?)
目で訴えると佐助君は「大丈夫」とだけ言い、私に自分の羽織をかけてくれた。
謙信様の声がして、またそちらに目を向けた。
謙信「どういうことか説明しろ」
尋問されているのは私じゃないのに、謙信様の底冷えした声が怖すぎて身体が震えた。
けれど男は身を翻して跪き、報告するような口調で受け答えた。
??「はっ、急ぎの書簡を届けにきたところ安土の姫がおりましたゆえ、捕縛を試みました」
(ん?もしかしてこの男の人…)
二人の様子に上司と部下のような関係が見えて、まさかと思う。
佐助「あの人は軒猿の一員だ。ちなみに俺もよくお世話になっている先輩だ」
(やっぱり謙信様の部下だったんだ!しかも佐助君の先輩。
どうしよう、そんな人を私…)
冷や汗が背中を流れる。
謙信「ほう、お前は相手を捕縛する時にわざわざ身包み(みぐるみ)を剥いだ上に無体をはたらくのか?」
謙信様の刀が首に当てられたのに、その人は姿勢を崩さないままだ。
??「いえ、姫が抵抗して私を投げ飛ばした際に着物が乱れたのであって、決して身包みを剥ぐなど致しておりません。
先ほどの音は私が柱に体を打ち付けた音です」
謙信様「なに…?舞、真か?」
謙信様は首に刀をあてたまま私を見た。