第77章 聖なる夜は騒がしく
信玄「やあ、おかえり。冷めてしまったから淹れなおしておいた」
「ありがとうございます、信玄様」
受け取った湯呑が温かくて、冷えた指先がじんとした。
「…前にもこうして冷めたものと温かいものを交換してくれましたよね。ふふ」
信玄「そうだったな」
私と信玄様の思い出だ。
謙信「?」
その後信玄様に押し倒されて怒ってしまったけど…、懐かしい。
あの時は私達をとりまく環境がこんなふうに変化するなんて思いもしなかった。
香り立つワインの芳香で肺を満たし、一口飲んだ。
「蜂蜜の甘さが丁度良くて美味しいです。スパイスがきいていて温まりそうですね」
信玄「だろ?謙信に味見させたら『甘すぎる』って言うんだ。あっちで一年、姫のお茶友をしていた俺の舌は確かだったろ?」
勝ち誇った眼差しで謙信様の湯呑にワインを注いでいる。
「そ、そんなになみなみと…。謙信様、何杯目ですか?」
謙信「3杯、いや4杯目か?」
信玄「ははっ、しらばっくれているのか?6杯目だろ」
「もうそんなに!?」
飲み始めて、たいして時間は経っていないのに大丈夫だろうか。
(顔色はいつも通り…)
もともと謙信様は酔っても見た目は変わらない。
でも酔ってくるとスキンシップが激しくなるので油断ならない。
信玄「最近酒を断っていたからな。止まらないんじゃないのか」
謙信「今夜だけだ」
「ふふ、でも謙信様が夏からクリスマスの準備をしてくれたと聞いて嬉しかったです。
素敵なホワイトクリスマスですね。ありがとうございます、謙信様」
謙信「2年分だ」
信玄様がははっと笑って謙信様の肩を叩いた。
信玄「そうだな」
「2年分?でも去年も一緒にお部屋でお祝いしましたし充分でしたよ?」
謙信「あれを数に入れてはならん」
「なんでですか?ささやかながらとても素敵なクリスマスでしたよ?」
信玄「まぁ、謙信にとっては心残りだったんだよなぁ?」
謙信様の眉間の皺がどんどん深くなり、信玄様は愉しげにワインを口にしている。
よくわからないけど今年のクリスマスがこんなに素敵なのは去年のクリスマスに原因があるみたいだ。