第5章 看病三日目 護身術と誓約
(姫目線)
佐助君が寝てしまい一人でお昼ご飯の用意をしていると、家の裏手で何か気配を感じた。
(野犬とか猫かな?)
気になって裏戸へ近づいたけれどそれっきり物音はしない。
「気のせいかな」
戻ろうとして裏戸に背を向けた途端、ガタッと音がして戸が開き、黒い影が入ってきた。
「!!」
黒い影は忍び装束で、背格好を見れば知らない人物だ。
相手も私の姿を認め驚いているようだった。
??「安土の姫!?何故お前がここに居る?」
そう言って勢いをつけて掴みかかってきた。
それは謙信様が蜂を切った瞬間のようにスローモーションで見えた。
男の太い指がこちらに伸びてくるのが怖いくらいゆっくり見えた。
(誰、この人!私を知っている?)
謙信様は不在で、佐助君は寝ている。
どうにかしなければと思った時には体が動いていた。
後ろに押し倒されそうになっていた状況で、押し倒される前に相手の懐を掴み自分で後ろに倒れた。
上にある男の体を両足で蹴り上げる。
蹴り上げる時のタイミングが合わず、片足は腹部を、片足は太ももと別々の所にあたったので幾分蹴り上げる力が弱くなった。
けれども私を押し倒そうとする勢いが良かったので、黒い体は思いのほか遠くまで飛んだ。
家の柱に男の体が当たり、ドシン!という大きな音がした。
「っ」
男を蹴り上げる時に足を大きく上げたので着物の裾が乱れ、掴まれた襟もぐちゃぐちゃだ。
背中が痛んだけれど、次に備えて体を素早く起こした。
佐助「舞さん!?」
寝ていた佐助君がぱっと起き上がり、すぐ傍に置いてあった刀をとって私を引き寄せた。
腰に回った手から着物越しなのに熱い体温が伝わってくる。
病人なのに佐助君の身のこなしの速さに驚く。
謙信「何事だ!?」
戸が開き、血相を変えた謙信様が現れた。
その姿が視界に入っただけで体の力が抜けた。