第77章 聖なる夜は騒がしく
「これって、ワインですか?」
(あったかいワインってなんだっけ、そうかグリューワインだ)
使っていない単語は最近忘れがちだ。
信玄「そうだ。この地でワインを好む人間は居ないらしくてな、外国船から時々卸されるらしいが買い手がなく、洋酒は安価で手に入るんだ」
「知らなかったです。知っていれば買ってきたのに…」
信玄「酒なんて重たいもの、姫には持たせられないさ。
それに俺も偶然知ったばかりなんだ。酒屋の主人が店の裏でワインを捨てているのを見かけてね」
「え?捨てるくらい売れないんですか?」
信玄様は頷いた。
信玄「色が赤いだろう?どうしても血を連想させると、気味悪がって誰も飲まないらしい」
「も、もったいない」
謙信「だからと言って、全て買い上げてくる信玄も信玄だがな」
信玄「安土から酒を樽で買ってきた男に言われたくないな」
信玄様が涼しい顔で受け流し、グリューワインの説明を始めた。
信玄「それにはしょうがとニッキ、蜂蜜の他に、レモンの代わりに金柑が入っている。
温めたからアルコールは少し飛んでいる。クリスマスの夜くらいはどうだい…?」
パチリとウインクされた。
私が最近お酒を控えていることに薄々気づいていたのかもしれない。
隣にいる謙信様を見上げると頷いてくれた。
「わぁ…嬉しい。じゃあ、せっかくなのでかまくらの中で、乾杯しましょう?」
信玄「もちろん」
佐助「やあ、舞さん、いらっしゃい。
ブロック型のかまくらを作ってみたくて謙信様に我儘を言わせてもらった。
こっちにテーブルと椅子を用意しておいたからどうぞ」
かまくらは思ったよりも中が広くて木製のテーブルが二つ、奥に雪でできたテーブルが一つあった。屈まなくても頭がぶつからないくらい天井が高い。
(凄い、こんなおおきなかまくら、初めて…)
昔大雪の時に作った、一人しか入れないかまくらとは大違いだ。
「ありがとう、佐助君。
クリスマスにかまくらで過ごせるなんて素敵だね」
佐助「聞いたと思うけど発案は謙信様だ。あと、このブロックを作ったのはほぼ謙信様で俺は組立てただけだ」
「そうなの?」
整然と並んでいるブロックはどうやって作ったかわからないけど、よくできている。