第77章 聖なる夜は騒がしく
さっきまでは明かりひとつない景色だったのに、ポツンポツンと小さな明かりがともされ、光の道ができている。
「わあ!もしかして、雪の灯篭ですか?」
家から港町へ続く道に沿って、小さなかまくらがいくつも作られている。その中で蝋燭が灯っている。
龍輝と結鈴が居る場所には本格的に大きなかまくらができていて、ひと際多くの灯(あか)りで彩られている。
謙信「近くに行って見るぞ」
「はいっ!」
一歩踏み出した途端に足がずるっと滑った。
「わわっ!?」
すぐに引き上げてくれる逞しい手。
謙信「ふっ、色気のない声だ」
「う、す、すみません。『きゃあ♡』って言った方が良かったでしょうか…」
(咄嗟に出る声だからどうしようもないんだけど…)
どうせなら『可愛い声だな』って言われたい。
謙信「ふっ、舞なら…」
形の良い唇が耳元に近づき、ひそひそと囁いた。
バッと耳をおさえた。
「っっ!!け、謙信様っ!!」
謙信「さ、行こう。足元に気をつけろ」
手を引かれて道を歩いて行く。
よく見るとかまくらは木の実や葉でデコレーションされていた。
「可愛い。これは結鈴っぽいな。
こっちの木が刺してあるのは龍輝ですね?」
ひとつひとつ見ながら進んでいく。
「ん?これは………」
もこもこした形のかまくらがあった。
(なんだろう、これ…)
想像力を膨らませてみたけどわからない。
目がついているから生き物であることは確かなのだけど……
わからなくてかまくらの後ろの方を見ると、丸い尻尾のようなものがついていた。
「わかった!!謙信様、これ、うさぎですね!?」
謙信「よくわかったな。龍輝も結鈴も、一緒にかまくらを作っていた者達も誰一人わからなかったぞ」
嬉しそうに笑う謙信様にちょっとびっくりした。
「待ってください、これって謙信様作、なんですか?」
謙信「そうだ」
(提灯の紙を綺麗に張り付けられる方が、なんでモコモコうさぎを作っちゃうの!?)
「………ふっ、ふふ。謙信様って、面白い…っ」
謙信「何か笑わせるようなことをしたか?」
「器用なのに器用じゃないというか…。
味があって可愛いですね、このうさぎ」
そう言えば絵が苦手だったな、なんて思い出して余計おかしくなった。