第5章 看病三日目 護身術と誓約
(謙信目線)
朝餉の後、舞は食器を片付けようとする佐助をやんわりと止めて、話し相手をしている。
『がす』が何かわからんが、調理の際に使用する「何か」のようだ。
毎度毎度二人で話している時は俺の存在を忘れたように見つめ合い、笑いあっている。
気の抜けた佐助の顔を見ると斬りつけたくなるが、舞の手前そうもいかない。
(外の空気でも吸うか)
外套を羽織り『出かけてくる』と声を掛けると、俺の背中を追うように
「はい、いってらっしゃいませ」
という声が聞こえてきた。
振り返ることなく戸を閉め、空を見上げた。
謙信「と言っても行く宛てなどないのだがな…」
城下を歩き、目撃されてしまえば厄介だ。
佐助が動けない今、安土の連中に気取られるのはまずい。
部屋の中からは『な、なんのこと?』とひと際高く舞の声が響いた。
その後も楽しげに話をしている様子だ。
謙信「……」
(恋仲の二人だ。二人きりで話したいこともあろう)
行く宛てもなく部屋を離れた。