第5章 看病三日目 護身術と誓約
「初対面の時はね、怖いけど綺麗な人だなって感じで…。
蜂を退治してくれたお礼に、一緒にお酒を飲んだ時があったの。
その時に謙信様に凄く惹かれちゃって…気づいたら凄く好きになってたんだ」
何にはばかることなく正直な思いを口にした途端、胸がスッと軽くなった。
ひた隠しにしていた気持ちが、気づかないうちに重くのしかかっていたみたいだ。
佐助君は何かを思い出したように目をパチパチさせた。
佐助「謙信様が安土の酒を越後まで運ばせた時があったんだ。
君に教えてもらったと言っていたから、一緒に飲んだお酒じゃないかな」
「え?越後にお持ち帰りしてくれるくらい、気に入ってくださったんだ」
(嬉しいな)
佐助「うん。でも春日山で飲んだら『安土で飲んだ時の方が美味しかった』と首を傾げていたよ」
「ふーん、そうなんだ。なんでだろうね?」
(輸送方法のせいかな?)
佐助「さあ、なんでだろうね?
舞さんはお酒を美味しくさせる力があるのかもしれないね」
意味ありげに言われて面食らう。
「まさか!そんな力ないよ。佐助君ったら、変な冗談言わないで」
佐助「同じお酒を飲んで味が変わるとしたらどんな時だろう……ね…」
そう言うと佐助君はウトウトと眠り始めた。
私はずり落ちていた布団を掛けなおしてから立ちあがった。
「お酒の味が変わる時?
んー、体調が悪いとビールは苦く感じるよね。
謙信様は越後に帰られた後、体調が悪かったってこと?…???」
佐助君の含みのある言い方が引っ掛かったけど、よくわからず首を傾げるばかりだった。