第76章 姫の好奇心(R-18)
「ありがとうございます、謙信様。
寝すぎてしまいました。もう直ぐ食べ終わりますので急いで帰りましょう?」
謙信「今日はここに泊まることにした。宿には話を通してある」
「私はもう大丈夫ですよ。今すぐ帰れば夕餉を作れます」
『駄目だ』と首を横に振られた。
謙信「結鈴と龍輝は光秀と信長の所へ泊りに行くとはしゃいでいるそうだ。食事は各々どうにかするだろう」
「光秀さんのところに?結鈴、ご飯大丈夫かな…」
光秀さんの家に行ったことがあるけど、台所には食料はおろか、調理器具もほとんどなかった。
何故か渋柿がひとつ置いてあったのだけ、やけに覚えている。
謙信「なにかあれば信玄の所へ上がり込んで食べるだろう」
「皆さんにご迷惑を…」
謙信「そっちの心配より舞は身体の心配をしろ。どこかおかしいところはないか?」
謙信様は行灯の位置を定め、傍に寄ってきて空になったお膳を見た。
『冷えていただろうに』と呟かれ、首筋に手をあてられ、脈拍と熱を確認された。
「せっかく用意して頂いたので…。冷えていても美味しかったですよ」
謙信「言えば作り直させたというのに。
身体の方は落ち着いているようだが今すぐ帰ることはできないだろう?
力が入らないのがその証拠」
指先に力がはいらず、おろしたままの髪と曲がった帯に触れられた。
「う……」
実は箸を持つ手にも力が入らなくて、行儀が悪いと思いながらも刺し箸で食べた。
謙信「今日歩いて帰るのは無理だ。無理をせず明日までゆっくり過ごせ」
帰りたい気持ちはやまやまだけど、現実問題、長い距離を歩けそうにない。