第76章 姫の好奇心(R-18)
(姫目線)
「ん………」
目が覚めて瞼を持ち上げると、部屋が薄暗かった。
(どれくらい寝ていたんだろう?)
夕方には帰る予定だったのに、今まさに日が落ちようとしている暗さだ。
抱き締めてくれていた謙信様は居ない。
身体を起こしてみる。
多少の怠さは残っているけど、薬で引き起こされた不快な症状は消えて、頭もすっきりした。
「良かった……」
(それにしても謙信様はどこに行ったんだろう?)
心細く思っても、行方に見当がつかない。
布団にもどろうかと思い、ふと謙信様の着物や外套、刀がないことに気が付いた。
「置いて行かれちゃった?」
まさかとは思うけど、着物を着た方が良さそうだ。
手にうまく力が入らなくて帯を結ぶのに苦戦した。
形の悪い結び目にがっかりしながらも、今はこれが限界だと諦める。
謙信様に脱がされてしまった足袋は畳まれて置いてあった。
この宿に来てから色々あり過ぎて、足袋を脱がされたのが随分前に感じられる。
身支度を済ませ、すっかり冷えたお膳の前に座った。
新しく用意してもらったのに食べずに寝てしまったので、冷えて乾いている。
謙信様が毒見をした跡があった。
「もったいなかったな」
献立を変えてくれたらしく、二度目でも楽しめるお膳だ。
することもないので食べて謙信様を待つことにした。
「うん、冷めてても美味しい」
ご飯はカピカピだったけど、よく噛めば食べられたし、汁物も丁寧に出汁がとられていて美味しい。
温かい時はさぞかし美味しかっただろう。
暗い部屋で食べ進めていると、謙信様が現れた。
謙信「起きたか。一人にしてすまなかった。行灯の火を貰いに行っていた」
部屋の片隅に置かれていた行灯に火が灯ると、部屋がぼんやりと明るくなった。