第76章 姫の好奇心(R-18)
(謙信目線)
舞は規則正しい寝息をたてはじめた。
しばし観察しても呼吸は安定している。
おかしな発汗はおさまり、上気していた頬も元に戻りつつあった。
謙信「手の届くところに居るというのに、喪うかと思ったぞ」
やはり俺はそういう宿命を背負っているのかと、愛さなければ良かったのかと一瞬悔いた。
だが『そんなことはない』と直ぐに思い直したのには自分でも驚くべきことだった。
『くだらないことを考えている暇があったら、治療に動け』という気持ちが強かった。
腕にとじ込めている温もりが愛しくて、少しだけ力を込めた。
謙信「昔の俺ではない。舞が変えてくれたのだな」
毎日顔を合わせているのに、舞は『大好き』という気持ちを溢れんばかりに表現し、俺に手渡してくれる。
『謙信様のお傍に居られるだけで幸せ』
そう言って、毎日毎日愛情をくれる。
浴場で過去を語った俺に、今以上に愛すると言ってくれた。
惜しげもない愛情が俺を満たし、前を向かせてくれる。
眩しくて暖かくて、仄暗い過去の影さえ薄らぐ。
謙信「よく眠れ。少し一人にするが寂しがるなよ?」
名残惜しいが、やることがある。
俺は褥からそっと抜け出し、部屋を出た。