第4章 看病二日目 効果のない線引
謙信「どうした?」
「謙信様…」
一瞬目が合ったが故意に視線を外され、何を考えているか察することはできない。
(……?可愛げがないと思い込んでいるのか?)
謙信「そんなに気に病むな。確かにお前はそこらの女達に比べれば勇ましいとは思うが、充分愛らしい」
(女に対して『愛らしい』などと、一生使うことはないと思っていたのだが…)
だが慰めの言葉は舞には届かなかったようで、それどころかますます苦しそうな表情になった。
(違う。この女は可愛げがないことを悩んでいるのではない。何かもっと複雑な……)
この女が密かに抱えている『何か』がこのような顔をさせているのだろうか?
今にも泣きそうな、酷く苦しそうな顔をしているというのに気丈にも笑って済ませようとしている。俺は舞の手を掴んだ。
(何故だ、この女がどんな顔をしていようと関係ないというのに)
(苦しみを取り除いてやりたいとさえ思える)
鍋に向けられていた舞の視線が掴まれた手首をとらえて震えた。
「謙信様?どうしましたか?」
謙信「お前は何を苦しんでいる?」
「なにも。手を…放してくださいませんか?」
(しらを切るつもりか。まぁ、そうであろうな)
数日一緒にいるだけの人間に早々と悩みを打ち明けるわけがない。
無理やり暴きたい気持ちを抑え込む。
謙信「お前が人には言えない秘密を抱いているのはわかっている。それと関係しているのか?お前は時々酷く苦しんでいるように見える」
ふとした時にこの女に不似合いな影が落ちる。見て見ぬふりをしてきたが苦しみを露わにしている姿は放っておけない。
人の心にはずかずかと入り込んできたというのに、舞は俺が近づこうとすると余計にも苦しみ抵抗を見せた。
「それ以上は聞かないで下さい…」
泣きそうな表情を見せ、それ以上強引に聞き出せなくなった。