第4章 看病二日目 効果のない線引
謙信「舞、どうしたのだ…」
(この女が苦しんでいると俺も苦しい、何故だ…)
見えない手に心の臓を掴まれているようだ。
苦しい。息が上手くできない。
(なんだ?俺はどうしたというのだ…)
とにかく舞を少しでも楽にしてやりたい。
手首を離し、ゆっくりと頬に手を伸ばすと触れる瞬間に舞が瞼をおろした。
その拍子に透明な雫が頬を滑り落ちた。
謙信「………」
(泣く程苦しいのなら話してしまえ)
柔らかい頬に静かに触れ、涙の跡を拭う。
触れた瞬間に舞は身体を震わせ、瞬きを繰り返して気持ちを落ち着けていた。
(話さぬか……)
「ありがとうございます。もう平気ですから」
俺の手を避けるように立ち上がると土間に下りていった。
孤独を覆い隠すような後ろ姿に違和感を覚えた。
佐助という恋仲がいて、安土の連中に大事にされている女が何故孤独なのか…。
(俺が知り得ぬ秘密は思いの外舞を深く苦しめている)
鍋を入れ替えて水を足し終わった舞言った。
謙信「その苦しみ。耐えきれなくなる前にどうにかしろ。話なら聞いてやる」
「は、はい。ありがとうございます。
でもこの悩みはきっと国へ帰れば解決すると思います。
ここを離れれば自然と気持ちに整理がつき、薄れていくものだと思います」
謙信「その言い方はまるで…」
国へ帰ると言っていたが、佐助との仲を終わらせ、無理やり忘れようとしているのか。
しかし何かが違うと、警鐘が鳴っている。
(なんだ?わからぬ)
常ならば考えていることが丸わかりだというのに、この件に関しては上手く隠し通している。
この女が抱えている秘密とやらが気になって仕方がなかった。