第75章 異常(R-18)
「今の謙信様は時に感情の起伏が激しい時もありますが、ご自分でコントロールする力を身に着けていますし、私には無いその激しさが愛しく思えます。
極端なところが寧ろ……大好きです」
同情などではなく、本当にそう思う。
謙信様の魅力のひとつ、長所だ。
お湯の中で謙信様の手が身体を撫でてくれる。
謙信「舞がそう言ってくれるから、最近では特異な容姿も、気性の荒さも気にすることはなくなった。
こうしてお前の指輪に俺の目の色を使うぐらいには気に入っている」
お湯の中で左手をとられ、指輪に触れられた。
そこにはダイヤモンドを挟んで彩る水色と緑色の宝石が輝いている。
悲しいお話だったけど、謙信様の中では決着がついているみたいだ。
謙信「お前が長屋で俺に言ったことを覚えているか?
『謙信様は気にもかけていないでしょうけど、見目だってとても素敵だと思いますし、じっと見つめたら卒倒しちゃう女の人が続出する』とな」
「そ、そういえばそんなことを言った気がしたような、しないような…」
謙信様が道ならぬ恋をしていると知り、良いところを伝えようとして、つい止まらなくなって言った記憶がある。
謙信「誰にも明かしていなかったが、俺は見目を気にしていた。
整っている、整っていないという部分は気にもかけていなかったが、日ノ本の誰も持っていない色を、なぜ己が持っているのか、とな」
「謙信様……」
確かに謙信様は、自分の格好良さに関して全く自覚していない。
でもまさかその特異な『色』を気にしていたなんて…。
(気が付いてあげられなかった)
少なからず悩みの種だったろうに。
『綺麗だ』としか思っていなかった自分の浅慮(せんりょ)を悔やんだ。
謙信「気味悪いと思われても仕方ないというのに、お前は今まで何度も『素敵だ』『綺麗だ』と言ってくれた」
「だって本当に素敵ですよ?
今だから言いますけど、出会った時から綺麗な人だなって思っていましたよ?
端正な顔立ちだけじゃなく、謙信様を構成する全ての色も雰囲気も全部、です」
真正面から告白するのは恥ずかしくて、胸に顔を押し付けた。
お湯で濡れた肌がいつもより暖かい。