第75章 異常(R-18)
謙信「父上は、母上が南蛮人と姦通したのではと疑い、母上は必死で否定していた。
そんな経緯もあり、母上はますます俺を毛嫌いし、憎んだ。
俺の容姿のせいで謂(いわ)れのない疑いをかけられたのだ、当然と言えば当然」
「そんな…」
だって自分の相手が誰か、産んだのは誰か、一番わかっているのは母親なのに。
疑われたからって実の子を憎むなんて。
守ってあげなきゃいけない小さい存在なのに……
私なら疑われて悲しむことはあっても罪のない子供を憎むなんてしない。
誤解が解けないなら、せめて子供は守りたい。
(こんなふうに考えるのもこの時代では非常識なのかな)
いくら価値観や常識が違っても、子供を憎むなんてしたくない。
しかも小さい頃の謙信様は何も悪くなかったんだから。
幼い謙信様が龍輝の姿に重なって、胸がぎゅっっと締め付けられた。
謙信「俺の容姿は何故こうなのかずっと疑問に思っていたが遺伝子の異常だと知り、母上が姦通などしていなかったとわかった。
これは母上を責めていた父上の、上杉の血が作り出した『異常』だ。
近親者との婚姻が…代を経(へ)て、俺に現れた」
ポツリと呟いた謙信様が儚く見えて、私は硬い胸板にそっと頬を寄せた。
謙信「愛されて育ったお前を驚かせてしまったな、すまない」
「いいえ。でも……遺伝子異常でもなんでも、私は謙信様が好きですからね?
その髪色も、透けるような白い肌も、宝石のように綺麗な目も、全部。
気性が激しかったとしても幼いうちはどうしようもなかったと思います」
小さい子に『落ち着きなさい』とか『気を鎮めなさい』と言ったところで難しいのはいつの時代も同じだ。
成長とともにどうしていくのが幼い謙信様にとって最善か。
ご両親はお互いの不信感もあって、謙信様に根気よく寄り添うことをしなかったのかもしれない。