第4章 看病二日目 効果のない線引
(謙信目線)
「伊勢姫様はどんな見目でしたか?
可愛らしい方ですか?それとも美人な方ですか?」
伊勢のことを話していると唐突に聞かれた。
丸い薄茶の目が、好奇心でキラキラと光っている。
(この女は…伊勢より年上だろうに、時々子供のような目をするな)
聞いてもなんの益にもならぬというのに、些細なことまで舞は楽しそうに聞いていた。
そのせいか随分と伊勢の昔話をしてしまった。
じっと女を見る。
誰に対しても仏のように分け隔てなく接し
外見とは裏腹の強さを内に秘め
物怖じもせずズケズケと物申す
摩訶不思議な道具を操るかと思えば火の扱いは苦手
ちぐはぐな面を多々持っている女
底が見えない不思議な魅力をもつ女だ
薄茶の丸い目と、綺麗に編まれた艶のある髪、ふっくらとした頬。
(伊勢が持ち合わせなかったものばかり持っている)
舞の存在そのものが尊いような気がして俺は知らぬうちに笑みを浮かべていた。
謙信「伊勢は常に手をとってやらねばと思わせる程、華奢な女でな。
浮かべる表情はいつも儚げで消えてしまいそうだった。
だが城に居るウサギと触れ合っている時は目を輝かせ、とても愛らしかった。瞳はつぶらで黒曜石のように黒く、まだ幼さもあったが控えめにさした紅がよく似合っていた。
………とにかく全てが愛らしい女だった」
(在りし日の伊勢のことを他人に話すのは初めてだ)
正面切って伊勢がどんな女だったかなど聞いてくる人間は皆無だった。
舞の無意識の強引さで伊勢の記憶を引き出されてしまった。
(話術など持ち合わせていないこの女のどこにそんな力があるのだろうな…)
「伊勢姫様は守ってあげたくなるような可愛い方だったんですね」
謙信「ああ、お前とは全然似ていないな」
悪い意味で言ったわけではないが、途端に舞の眉があがった。
きっとこの女のことだ、姫らしい伊勢と自分を比べられたと機嫌を損ねたのだろう。
「何故そこで私と比べるんですか!?」
案の定だ。比べていないといったら嘘になるが、良い意味で『全然似ていない』と言ったのだが。