第1章 触れた髪
咄嗟に左手で風呂敷包みをかばい、右手で地面に手をつこうとした。
地面を見ていた視界に男物の草履が映り、気づくと力強い腕に抱きとめられていた。
(あ…お香の匂いが…)
目の前には謙信様の着物の合わせ。
ゆっくりと視線をあげていくと、均整のとれた顔立ちが目の前にあり、色違いの瞳と視線がぶつかった。
透き通った色合いに太陽の光が当たって息を呑むほど綺麗だ。
「綺麗……」
思わず口から本音がポロリと出てしまった。
謙信「…何か言ったか?」
じろりと睨まれて我に返った。
なんでもないと首を横に振り、頭を下げた。
「い、いいえ!なんでもありませんっ。
あの、ありがとうございました。この荷物、絶対汚したくなかったので助かりました」
体勢を整え、気恥ずかしさを隠して風呂敷包みを抱きしめた。
謙信「勝手に追いかけてきて、転びそうになるとは世話の焼ける女だ。
一体お前は何がしたいのだ」
私から手を離し、謙信様はまた歩き始めた。
その足はさっきより随分とゆっくりで、きっと私を気遣って下さっている。
「この間、蜂から助けてもらったお礼がしたかったんです。
謙信様にとっては大した事じゃなくても、私にとっては命を助けられたんですから」
謙信「俺はお前のために何かした覚えなどない。礼の必要もない」
横に並んで歩く私を、面倒そうに見ている。
(うーん、あまり押しつけがましくお礼をしたいって言うのも迷惑だよね…)
どうしようかと悩んでいると、
謙信「もう行け。俺は用がある」
「そういえばどこへ行くところなんですか?」
敵地で用があると言うと、なんだろう?と疑問に思い聞いてみる。