第73章 取り払われた憂い
謙信「茶屋で話を聞いて、お前は何も思わなかったのか」
「思いましたよ。この時代は誰もが安全に子供を産めないんだなって。
自宅で出産して命を落とすなんて、悲しいです」
謙信「心優しいお前はそっちを思ったのか。
俺はもとよりこちらの時代の人間だ。子を産むことに身分の差、富裕の差があり、お前たちの時代のように誰もが整った環境で産めるとは思っていなかった。
改めてそれを考えるよりも違うことを……考えた」
「え?」
謙信様は留め具を外し外套を脱ぐと、無駄のない動作で刀を外し、短刀を出し、着物を脱いでいく。
徐々に露わになる白く美しい裸体に視線をずらした。
謙信「俺は心置きなくお前を抱けると思った」
目を丸くしていると謙信様は最後の襦袢を脱いだ。
鍛えられた身体が惜しげもなく眼前にさらされた。
「っ」
謙信「思うままに愛し合いたい。最後まで…」
謙信様の手が私の着物に伸びてくる。
帯を失くした着物は前がだらりと開いていて襦袢がのぞいている。
長い指が襦袢の紐を解いた。
謙信「お前を愛したい。愛らしい啼き声を聞かせてくれ。
頬も、身体も赤く染め、瞳を潤ませてよがる舞を堪能したい」
襦袢と着物を同時に脱がされた。
窓がない薄暗い部屋と言えど、太陽の位置は高い。
入口の障子戸は、明るい日差しを受けて白く淡い光を部屋に届けている。
咄嗟に両手で身体を隠した。
「や……」
謙信「駄目だ、全部、見せてくれ」
「こんな明るいところで、嫌です!」
謙信「大丈夫だ。何度も綺麗だと言っているだろう。
久しぶりだ…全部見せてくれ」
「謙信様みたいに鍛えてないですし、最近ストレッチをしている時間もないので何もしていませんし……とにかく自信がないんです」
脱がされた着物で隠そうと手を伸ばすと、すかさず謙信様の手に阻まれた。
着物を遠くに押しやられ、為す術もない。
足袋だけを身につけ、布団の上で膝を抱えて座った。
長く伸びた髪を、身体のラインを隠す隠れ蓑にした。