第4章 看病二日目 効果のない線引
初めて伊勢姫様の話を聞かせてくれた時は乾ききっていた瞳が、今は活き活きと輝いていた。
胸にもやっとした感情が湧きあがり、それを悟られないように静かに話を聞き続けた。
「伊勢姫様は守ってあげたくなるような可愛い方だったんですね」
謙信「ああ、お前とは全然似ていないな」
悪気はないのだろうけど、その言い方にむっとする。
「何故そこで私と比べるんですか!?」
謙信「いや、お前と同じ言い方をすれば特に意味はない」
しれっと言われ、憎たらしくなる。
「どーせ、私は女らしくないです!」
謙信「男勝りとも思えないが?」
フォローしてくれたのかもしれないけれど微妙な返答にぐさっとくる。
「それって励ましにもなりません!
いいんです、なんでも自分でやろうとするから可愛げがないって言われますし」
謙信「そんな事もないと思うがな」
(え?)
意外な答えが返ってきて謙信様を見返した。
可愛らしい伊勢姫様と全然似ていないと言われ、てっきり可愛げのない女だと思われているのだと疑いもしなかった。
謙信「佐助がそのままのお前を好いているのならそれで良いではないか?
それとも佐助に『可愛げがない』と言われたか?
それならあいつの目が覚めるように一太刀浴びせても良いが…」
「えーと、お気持ちは嬉しいのですが佐助君はそんなこと言っていませんし、切りかかるのだけはよしてくださいね?」
何でもないふりを装ったけど内心では嬉しい気持ちでいっぱいだった。
『目が覚めるように』ということは、謙信様自身は私を可愛げがないとは思ってない、そんな風に聞こえて胸がギュッとなった。
(…だめだ。ときめかない、ドキドキしない)
この時代の人に深入りしない、恋をしない。
私は年が明けたら元の時代に帰る。
そう言い聞かせることで暴れそうな思いを無理やり抑えつけた。
謙信「どうした?」
「謙信様…」
心の中まで見透かされそうな瞳と目が合い、慌てて目を逸らした。
そうしないと察しがいい謙信様に気持ちがバレてしまいそうだったから。