第4章 看病二日目 効果のない線引
(姫目線)
食後にお茶を飲んでいると謙信様が静かに話し始めた。
謙信「お前の話を聞いて思い出した。
伊勢が『国元は冬でも日差しが強く、山から吹く強い風で乾燥している』と言っていた。
女達は乾燥から肌を守るためにそれは苦労していたそうだ」
「やっぱりそうなんですね!数日旅行しただけの私がそう感じたから住んでいる人達は大変ですよね」
謙信様は遠い目をしている。伊勢姫様を思い出しているのだろう。
謙信「冬になると乾燥を避けるため、侍女が髪に油をたくさん塗るから嫌だとも言っていた。」
「ふふっ、べたつきますものね」
女性の悩みは姫様でも、一般人の私でも同じなんだなと嬉しくなって相槌をうつ。
それから謙信様はポツリポツリと伊勢姫様の話を聞かせてくれた。
内陸で育ったせいか海の幸よりも山の物を好んで食べたとか。
食事を共にしようとすると家臣に邪魔されるので刀で脅しつけてやったとか、些細な内容だった。
「伊勢姫様はどんな見目でしたか?
可愛らしい方ですか?それとも美人な方ですか?」
そう問うと、何故か謙信様は私をじーっと見つめ、頬を緩めた。
謙信様は私を見ているけれど、私を通り越し伊勢姫様を見ているのだろう。
今まで見たどれよりも綺麗な笑みだった。
ズキ
その表情をさせているのは伊勢姫様だと思うと胸が痛んだ。
謙信「伊勢は常に手をとってやらねばと思わせる程、華奢な女でな。
浮かべる表情はいつも儚げで消えてしまいそうだった。
だが城に居るウサギと触れ合っている時は目をキラキラと輝かせ、とても愛らしかった。
瞳はつぶらで黒曜石のように黒く、まだ幼さもあったが控えめにさした紅がよく似合っていた。
………とにかく全てが愛らしい女だった」