第72章 おまけ
「レッグウォーマー、あったかい……」
ホッとしていると軽い衝撃音が遠くで聞こえ、続いて『火事だーーー』という男の人の声が聞こえた。
「火事っ!?大変」
オロオロしていると天井板が一枚外れて佐助君が姿を現した。
佐助「軒猿の先輩に頼んで厨と玄関付近で煙玉を使ってもらった。
ここの人達が混乱しているうちに逃げよう」
「うん!」
佐助君が目を瞬かせた。
佐助「舞さん、ついさっき会った時より可愛くなっている」
「や、やだ、もう。早く行こう!」
佐助「了解」
廊下に出ると帰蝶さんと元就さんが少し離れたところに立っていた。
「あ……」
短い間だったけど決して酷いことはされなかった。
それどころかお年玉までもらってしまって……
帰蝶「行け。荷物は安土に届けておく。
これに懲りたら年末年始の祝いにうつつを抜かすなと言っておけ」
元就「次は逃さねえからな、お姫さん。
今日のは、ほんのお遊びだ。焦った安土と越後の連中の顔が見たかったぜ」
「つまり、いつでも私を攫えるって言う警告のために?」
元就「今更気づいたのか?一泡吹かせるためのお遊びだって最初に言ってやっただろう。
安土の連中に楽しいお年玉ってやつだ、じゃあな」
元就さんがひらひらと手を振って、歩いて行く。
佐助「行こう」
「手のひらで踊らされた感じがして、く、悔しい」
佐助「特製かんしゃく玉の雨を降らせてあげようか?」
「…いいよ。親切にしてもらったし」
帰蝶さんは涼しげな佇まいで、こちらを見ている。
佐助「じゃあ、行こう。少し担いで屋根を歩くからね」
米俵みたいに担がれると着物の裾がめくれて足が……
「あ…だから早く付けろって言ってくれたの?」
寒くない足元に、ちょっぴり感動した時…
ふわ
「う、またこれ……?さっきご飯食べなくて良かった」
屋根を『歩く』なんてものじゃない。飛び上がり、駆け抜け、飛び降り、疾走、だった。
胃の内容物がでてきそうだ。
「う、もう帰りたい。安土の自分の部屋でゴロゴロしたいよ~~~~!」
私の叫びは夕暮れに染まる空に虚しく響いて消えた。