第72章 おまけ
帰蝶「せっかく美しい着物を着ているのに、髪が乱れている。
結ってやろう」
「っ!?!?き、帰蝶さんが?」
帰蝶「何を驚く」
「なんで、帰蝶さんが女性の髪を結えるんですか」
帰蝶「さあな」
帰蝶さんは押し黙り、髪を梳かし、油を付けると結い上げてくれた。
「わぁ、帰蝶さん、編み込みができるんですね。
編んだ髪から髪を少し引っ張ってルーズ感を出すなんて…あっ」
この時代の人に『ルーズ感』なんてわかるわけない。
帰蝶「……その方がこなれた感じがしていいだろう。
今度は化粧だ。こっちを向け」
手持ち鏡を覗きこんでいた顔を、少し上向きにさせられた。
萌黄色の瞳をまともに受け止めてしまい、ピシリと固まった。
「け、化粧はいいです」
真っ白お化けみたいに塗られるくらいなら、すっぴんでいたい。
帰蝶「案ずるな」
化粧箱から小さな陶器の入れ物を出し、帰蝶さんは私の肌に合わせながら色味を選んでいる。
それはまるで現代でファンデの色を合わせる時のようだった。
(なんでこの時代の人が……)
ビックリしているうちに次々に化粧を施されていく。
帰蝶「できた。もとは悪くないのだから、もう少し身だしなみに気をつけろ」
手渡された鏡をみると、昨日、私がしたお化粧より上手に仕上がっている。
肌の色に合ったファンデーション。
ふんわりのった桃色のチーク。
私の眉の色に合わせた、こげ茶のアイブロウが使われている。
(なんで!?)
瞼を片目だけ閉じてみると、控えめにアイシャドウが塗られている。
「すごい………帰蝶さん」
(帰蝶さんって武将だよね?武将って嗜みとして女性の化粧まで覚えるものなの?)
帰蝶「お前にはこの時代の化粧、髪型は似合わん。
この化粧一式(魅力300)、その髪結(魅力200)を、お年玉代わりにくれてやる」
『この時代の』という単語がひっかかったけど、お化粧品を貰える嬉しさの方が勝った。
「ありがとうございます!
実は今使っているお化粧品、もう少しでなくなりそうだったんですっ!!」
手をとらんばかりに喜んでいると、なんの声かけもなく襖があいた。