第72章 おまけ
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??「舞さん」
することもなくいつの間にか転寝(うたたね)していたらしい。
耳元で聞こえた声にはっとした。
(佐助君だ)
目の前に忍び姿の佐助君。
天井を見上げると板が一枚ズレている。
「佐助君…迷惑をかけてごめんね」
佐助「舞さんのせいじゃないよ。俺達のせいだ。
今、脱出ルートを確保しているところなんだ。もう少しここで大人しくしていてくれる?」
「わかった」
佐助「誰か来る」
「っ」
佐助君が飛び上がって天井裏に姿を消すのと同時に、襖がスラリと開いた。
帰蝶「昼餉を持ってきた」
「……いりません。食欲ありませんから」
こんな状況で用意された食事なんか食べたくない。
フンとそっぽをむく。
帰蝶「食べておいた方がいざという時に良いと思うがな」
「……」
(確かに腹が減っては…だけど……)
「いりません。春日山城の朝食でお餅を7個も頂いてきました。だから全然お腹がすいてないです」
朝食で出されたお餅が美味しいと言ったら、謙信様が『越後の米で作った餅だからな』とたくさんお餅を焼いてくれた。
目の前で焼いてくれたお餅は、それはもう香りも味も絶品で……。
帰蝶「お前の身体のどこに餅が7個も入るんだ?
見かけによらず大食いなのか…」
呆れ混じりの視線が確認するように私を見る。
いっぱい着ているから身体の線はわからないはずなのに、頬に熱が集まった。
「……だって、美味しかったんですもの」
幸村が『焼きすぎて焦げてます!』って、餅奉行みたいだった朝が嘘みたいだ。
狭い部屋にとじ込められている現状にため息しか出てこない。
帰蝶さんはフッと笑いをこぼすと、お膳を持って部屋から出ていった。
でもすぐに化粧箱のようなものを持って戻って来た。