第4章 看病二日目 効果のない線引
わかっていたが…温かみのある料理を一人で食べるのが惜しかった。
食事をしながら舞が上野の国についてどう感じたのか聞いてみた。
他の国の様子となると地形や作物についてが常套な内容となるが、そこはやはりというか舞らしく景色の素晴らしさや風の強さなどを話していた。
温泉の泉質や感想まで話だし、女と男の視点はこうも違うものかと思い知った。
友人のことを楽しそうに話し、懐かしむように遠くを見て笑っている。
邪気のない、まっさらな笑顔を見ていると、こちらまで毒気を抜かれるようだ。
謙信「お前はよく笑うな」
伊勢以外の女の笑い声など耳障り以外の何物でもないと思ってきたが、この女は例外のようだ。
舞は笑いを引っ込め口ごたえをしてくる。
「笑う門には福来るって言うじゃありませんか」
謙信「おまけによくしゃべる」
この女を揶揄うのは楽しい。フニャフニャと笑った顔を見ると、つい苛めたくなる。
口の端が勝手に持ち上がった。
「謙信様が話を振ったんじゃないですか!も、もう!黙って食べます」
ムスッとした横顔を時々眺めては食事を続ける。
距離をとったはずなのに、料理1つであっけなく近づいた。
朝の行為は無駄になったが悪くない気分だ。
女の顔が妙に眩しく見えて、目を細めては気づかれぬよう眺めた。