第4章 看病二日目 効果のない線引
(なるほどな…これがそうなのか)
熱い料理を食べているからではない、不思議な温かさが身体に染みこんでくる。
心地良いが…物足りない。
(理由はわかりたくないのだが)
謙信「お前は食べないのか?昨日もここで食事を摂らなかっただろう?」
後片付けに入っていた舞に声を掛けると、眉を下げ戸惑っている。
「私は結構です。味見ついでに少し頂いていますし。
それに謙信様のような偉い方はあまり他人とお食事を共にしないのではないですか?」
(この女は今更何を遠慮しているのだ)
謙信「俺の隣で酒に酔いしれ、つまみを全部食べたお前が今更なにを畏まっている?」
「もう!酔っ払いの食いしん坊みたいに言わないでください!」
(酔っ払いの食いしん坊か…)
その言い方は舞らしいというか…おかしい。
逃げるように出かけようとしているので咄嗟に引き留めた。
謙信「駄目だ。腹をすかせて倒れられては適わん。お前の分の椀を出せ」
「朝晩お城でしっかり食べているから平気です」
謙信「では俺が共に食べたいと望めばそうするのか?」
「え…?」
舞は驚いて固まり、俺自身何故そんなことを言ったのか戸惑った。
結局舞は諦めて椀と箸を持ってきた。
少しだけと言っているが鍋には佐助が食べても十分に残るくらい料理がある。
(細すぎるわけではないが動き回っているのだからもっと食べた方が良い…)
椀を取り上げ料理をよそってやると舞は恐縮していた。
「あ、ありがとうございます。
謙信様はその…、炊事に慣れていらっしゃるんですか?」
炊事のあれこれを知っているのは寺育ちのせいだが、そんなことを長々と語るのは億劫だったので省いた。
熱い料理にふうふうと息を吹きかけて食べる様子を見ていると、先程感じた物足りなさが無くなっていくのを感じた。