第72章 おまけ
門徒1「誰だあの女性は」
門徒2「あの楚々とした姿、どこぞの姫だろうか」
門徒3「もしや顕如様は妻を娶られたのでは」
呟きはやがてざわめきとなった。
「ど、どうしよう。騒ぎになってる?」
蘭丸「大丈夫。それにもうすぐ顕如様のお部屋だし」
足を向けていた先で、襖が開く音がした。
顕如「この騒ぎは何事だ?」
蘭丸「あ」
「う…」
扇子で見えないけど、顕如さんがこちらを見ている気配がする。
(ど、どうしよう、ここでお話するべき?)
でも扇子をおろしたら、他の人に顔を見られることになる。
束の間の沈黙の後、顕如さんの静かな声がした。
顕如「姫…こちらに」
「はい、ありがとうございます」
背中を追いかけるように声が聞こえてくる。
門徒1「聞いたか、今の可憐な声」
門徒2「姫を見つめる顕如様の眼差し…間違いない。ついに奥方を…」
勘違いも甚だしいけど、グッと我慢した。
パタン…
顕如さんの部屋にお邪魔すると、お線香の匂いがしてホッとした。
顕如「それで元旦にわざわざなんの用だ」
そう言われても、蘭丸君に連れてこられちゃっただけなんだけど…
顔を隠していた扇子を取ると、真正面に顕如さんが座っていた。
(わあ、久しぶりにお会いできたな)
低くゆっくりとした口調が懐かしい。