第71章 謙信様との逢瀬
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慌てる私の手を引き、謙信様は少し古ぼけた建物まで連れてきた。
暖簾や看板もないのでぱっと見、なんの商いをしているのかわからない。
ただ民家ではないことは確かで、塀に囲まれたその建物の奥行きはどこまであるのかわからなかった。
(なんだろう、ここ…)
得体の知れない場所に気後れしながら、謙信様に手を引かれて中に入った。
広い玄関と大きな靴箱のようなものを見て、やっと宿なのかな?と気づいた。
応対してくれる人も、建物の中もなんとなく薄暗い雰囲気があった。
ギシ…
歩くと軋む廊下を進む。
中庭が作られているけれど手入れが行き届いていないようで寂れている。
(謙信様が連れてきてくれたから危ない場所ではないだろうけど…)
昼間なのに薄暗いし、なんとなく陰鬱な雰囲気に不安が膨らむ。
幾つもの部屋を通り過ぎるも、どの部屋もきっちりと障子がしまっている。
まだ日が高いのだから、部屋に日を入れようと開いていてもおかしくないのに。
『………、………、………』
耳が捉えたかすかな声にピタリと足が止まってしまった。
(え、今の……)
耳をそばだててみたけれど、謙信様がくいっと手を引いた。
謙信「舞、行くぞ」
「は、はい」
確かめる間もなく歩かされ、後ろ髪を引かれる思いで足を動かした。