第71章 謙信様との逢瀬
――――
――
謙信様がお茶屋さんのお会計をしている間、隣の佃煮屋さんを物色する。
ちりめんじゃこと昆布の佃煮を味見させてもらって、ひとつ買っていると謙信様が歩いてきた。
「少しお待ちくださいね」
店員さんからお釣りと商品を受け取って、謙信様に向き直った。
包みの中から甘じょっぱい良い香りがする。
「美味しい佃煮が手に入りました。明日の朝ご飯の時にお出ししますね」
そう話しかけても謙信様は返事を返してくれなかった。
「謙信様…?」
再度呼びかけると謙信様がハッとしたように目を合わせてきた。
焦燥の色とでも言えばいいのか、何か考えていたようだ。
「疲れてしまいましたか?そろそろ帰りましょうか」
そういえば佐助君、蘭丸君、信長様と思いっきり鍛錬した後だ。
帰って休んだ方がいいかもしれない。
里山に足を向け、佇(たたず)む謙信様の手を引いて『帰ろう』と促した。
謙信様は抵抗するように動かず、眉を寄せている。
「謙信様?気分でも悪いのですか?」
心配になって声をかけたら、謙信様が
ひとつ頷いた。