第71章 謙信様との逢瀬
宿の人がひとつの部屋の前で立ち止まり『今日はすいておりまして、今のところ両隣とも空いております』と、ご丁寧に空き部屋情報を伝えて去っていった。
謙信様はためらいなく障子を開け、頭の上にはてなマークを浮かべた私を中に入れてくれた。
部屋は窓がひとつもなく、調度品の類もなかった。
夜に使うだろう古い行灯が部屋の片隅においやられ、あとは布団が一組敷いてあるだけだった。
(ここってもしかして…)
余計なものが一切置かれていない部屋と、さっき少しだけ聞こえた声…。
小さくてよく聞こえなかったけど、あれは多分、女の人の……喘ぎ声だった。
「あの、謙信様………?」
背後に立つ謙信様を恐る恐る振り返った。