第71章 謙信様との逢瀬
謙信「あの時の舞はいつも以上に綺麗だった。飾り立てなくとも愛らしいがな?」
不意に向けられた二色の瞳が、日差しを受けて透き通った輝きを放った。
「っ」
お茶を吹き出しそうになった。
手拭で口を押さえて『違う』と首を振ると、謙信様が不思議そうに首を傾げた。
「綺麗だったなって言ったのは景色のことです!雪景色!」
謙信「俺は景色よりも舞の方が美しかったと記憶しているが?」
「わ、わっ、こんなとこでそんな……」
近くに座っていた年配のご夫婦に聞かれてしまったらしく、『あら、いいわねぇ』なんて微笑まれた。
謙信「あの時も言っただろう?誰の目にも触れさせたくないほど綺麗だと。
今もその気持ちは変わらない」
「わ、わかりましたから、も、もう良いです」
手拭で真っ赤になった顔を隠すと、謙信様が笑う気配がした。
手拭の端をちょいちょいと引っ張られて顔をあげると、すぐ間近に端正な顔が迫り今度はのけ反った。
(い、今!!キスされそうな距離だった!)
謙信「後ろにひっくり返るなよ。頭を打ち付けては大変だ」
「謙信様が急に覗き込むからです!」
謙信「何か言ったか?」
「……いいえ」
頭から湯気が出てるんじゃないかってくらい首から上が熱い。
何をしても、何をされても適わない。
(惚れた弱みだなぁ。ずるい、謙信様)
甘いため息を吐き、これ以上人前でイチャつかれてはたまらないと、警戒しながら最後のお団子を口に入れた。