第71章 謙信様との逢瀬
(姫目線)
「びっくりしました。謙信様って、結構お知り合いが多いのですね」
港町に着いて、普段は素通りしてしまう小間物屋に立ち寄った時のこと。
ご婦人が多い中、謙信様を目にした女性達が『子供がいつもお世話になって』と何人も声をかけてきた。
謙信様達は交代で子供達に剣術や学問を教えているので、子供達を通して母親にも顔を知られているみたいだ。
少し気になったのは、どの女性も頬を赤らめていたことだったけど…
(仕方ないよね、謙信様は素敵だもの)
謙信様が町に出ている時間は、私は大抵里山に居る。
知らないうちに誰かが謙信様にアプローチしたらどうしよう。
謙信「知り合いと言っても、顔を知っている程度だ。
心配することは何もない。俺は舞だけだ」
お見通しだとばかりにフォローしてくれる。
「あ、ありがとうございます」
謙信「この程度で頬を赤らめるとは、いつまでたっても初々しいな」
「……」
(だって謙信様に『お前だけだ』なんて言われて平然としていられないよ!)
もじもじしていると注文していたお菓子とお茶が運ばれてきた。
お店の若い女性が『ごゆっくりどうぞ!』と気持ちのいい笑顔で言ってくれた。
いつも慌ただしく買い物をして帰るから、こうしてお茶屋さんで休むこともなかった。
せっかく逢瀬にきたのだからと立ち寄ってみた。
「お団子なんて久しぶりです。いただきます」
安土で食べたお団子よりもややキメが粗い舌触りだ。
絡めてある餡も甘味が少ない。
それでも謙信様が隣に居て、秋の青空の下で食べるお団子は格別に美味しかった。
「美味しいです、謙信様」
謙信「そうか、良かったな」
「ふふ、はい」
(さっきから、すっごい笑ってるなぁ)
二人きりの時間が嬉し過ぎて、締まりの悪い顔を自覚していながら、どうにもならない。