第71章 謙信様との逢瀬
女は寂しさを浮かべ、簪を見つめている。
女「おしどり夫婦だったので父はすっかり落ち込んで…。
でも母が大事にしていたこのお店を守りたいと、今も毎日お店に出てきます。
あ、ちょうど今出てきたのが父です」
娘が白髪まじりの男に駆け寄っていった。
女「あのお客様がね、あの簪を見て越後で作られたものじゃないかって声をかけてくれたの。
越後に住んでいたことがあるっておっしゃっているのよ、珍しいでしょう?」
華やかな声で父に説明しながら、こちらに手を引いてくる。
まずいな…と思ったが、案の定そうだった。
男「あ、あなた様はっ!!?」
目が飛び出るのではないかと心配になるほど驚き、その場に跪こうとしている。
謙信「しっ」
人差し指を立て、騒がないよう示す。
男は50手前だろう。
越後の人間だったというから、やはり俺のことを見知っているようだ。
男「お、お前はあちらでお客様のもてなしをしていなさい」
女「??はい」
不思議そうな顔をして女が去っていくと男は一歩前に踏み出し、頭を深々と下げた。