第71章 謙信様との逢瀬
(なにごとなのこの状況!?)
下手すれば信長様が斬られそうな勢いだ。
信長様は身をかがめて、私にだけ聞こえるように言った。
信長「貴様、夫を鎮めてこい」
「沈める……?」
信長様はとぼけたことを言うなと言わんばかりに頬をムニっと掴んだ。
信長「鎮める、だ。軍神があそこまで殺気立てて稽古する時は、大抵舞が絡んでいる。
付き合うこちらの身になれ」
「は、はぁ……。稽古していたんですね」
見ると謙信様の後ろに佐助君と蘭丸君が疲労困憊で座り込んでいて、その周りを結鈴と龍輝が『大丈夫~?』『パパ強いなぁ』と呑気に話しかけている。
「まさか信長様がそんなに汚れているのは…」
信長「部屋で休息していたところ謙信が乗り込んできて、いきなり斬りかかってきた。
信玄のやつ、俺が謙信の相手をしているうちに大笑いしてさっさと姿を消しおった!」
信長様が歯噛みしているのなんて初めて見た。
戦場で見たことがあるけど信長様は素人目にも群を抜いて強かった。
その信長様がこんなにボロボロになるまで稽古(斬り合い?)するなんて余程だ。
稽古の域を脱している。
「どうしたんですか、謙信様。やりすぎですよ?」
謙信「どうしたもこうしたもない。
俺が鍛錬したいからしているだけのこと。戦場では決着がつかなった信長を相手に、刀が打ち震えて喜んでいるようだ…」
冷ややかな容姿に垣間見える異常な熱に、ゾクリと鳥肌がたった。
戦に対しての飢えは消えたと言っていたけど、信長様並みの好敵手を相手にして血が滾ってしまったのかもしれない。
佐助「舞さん、信長様の前に立つのはやめたほうがいい」
蘭丸「早く逃げて」
そんなことできるわけない。
明らかにやりすぎだ。