第70章 行商人
全部私のためだったってわかるけど、それなら猶更言ってくれても良かったんじゃないかと思う。
謙信「すまなかったな、舞」
「ふん!今更謝っても知りません!
怒ってるんです、話しかけないでください」
頭まで布団をかぶって寝ていると、謙信様が明かりを消す気配がした。
話しかけないでくださいと言ったのは自分なのに、このまま素直に寝られてしまうとなんだか悔しい。
謙信「舞」
布団ごと抱きしめられた。
謙信「すまなかった。勝手な行動でお前を不安にさせてしまった。
飽きてなどいない。毎夜己を律するのに苦労している。触れられない期間が長くなり、おかしくなりそうだ。
言葉や態度で伝えきれない。本当はお前に毎夜触れたい…」
布団越しに伝わる腕に力がこもった。
謙信「いつも俺はお預けをくらうな。
現代に追いかけて行ったばかりの頃も、蝦夷に飛ばされて再会した時も、この家に住み始めてからは何かと制限されることが多い。
ついには舞を抱けなくなってしまった。
思う存分愛せたのは安土の宿で初めて抱いた時と、舞の家に世話になっていた時だけだ」
(そう言われればそうかもしれない)
なんだかちょっとかわいそうになってしまった。
布団から顔を出し、モゾモゾと動いて体の向きを変えた。
謙信「ようやく出てきたか。
お前を怒らせたままでは寝られない。許してくれるか?」
暗がりに見える謙信様は弱った顔をしていて、反省しているようだ。
「……もういいです。飽きられたんじゃないってわかりましたし」
謙信「そうか」
あんな困った顔をしていて、私の言葉一つで嬉しそうにするなんて…
(許すしかないじゃない)
惚れた弱みですぐ許してしまう自分が悔しい。
謙信様の長い足が布団の上にどすっと置かれた。
謙信「腕で抱きしめるだけでは足りない」
「だからって足……う、おもっ!」
片足分の重さなのに、どかすことができない。