第70章 行商人
行商人「そうです。私から買った布で作ったものがこの地に広まれば、自ずと私の売り上げも上がります。
それに都から蝦夷に向かってくる途中は都で仕入れてきたものを売り歩いてくるのですが、蝦夷から都に向かう道では売るものが少ないというのが現状です。
舞さんが作るものが良い品であれば、それを売り歩きながら都に向かえるので…」
つまりはこの人の売り上げがUPするというわけだ。
目的がはっきりしているし納得できる説明だ。
(うーん、怪しいところはなさそうだけど…)
京都や大阪まで行っているという言葉を信じれば、確かに肌は日焼けしていて足腰もしっかりしているし、物腰も穏やかで紳士的だ。
でもそれだけでは信用できない。
蘭丸「あなたが持っている布を見せてくれない?
言っておくけど『京で流行っている』とか言って、二束三文の品を見せてきたら帰るからね。俺も舞さんも、暇じゃないから」
行商人「は、はい。道の真ん中ではできませんので、向こうのひらけた場所でお見せ致します」
男が先に立って歩き、背には大きな荷物を背負っている。
『向こうのひらけた場所』というのも、人目がたくさんある場所だ。
行商人を装った物取りというわけではなさそうだ。
蘭丸君と無言で目を合わせ、その人について行った。