第69章 毛玉の家来
結鈴もつられて笑い、手に持っている大福の包みに目をやった。
包みを大事そうに抱え、結鈴がひそひそ声で呟いた。
結鈴「ほんとは、きゅーすけのきゅーは九兵衛さんのきゅーなの」
笑っていた信長は意外なことを聞いたと、結鈴に視線を向けた。
結鈴「信長様の家臣は光秀さんと蘭丸君でしょ?
光秀さんに家臣はいなかったのかなって佐助君に聞いたら、『光秀さんの家臣は九兵衛さんだ』って教えてくれたの。
光秀さん、九兵衛さんがいなくて寂しくないかなぁと思ったからきゅーすけにしたの。
きゅーすけが大きくなったら光秀さんの相棒になれるかなぁ??」
信長が喉を鳴らして笑った。
信長「結鈴の頭の中には光秀しかおらんのだな。さぞかし軍神は落ち着かぬだろう。
猫が光秀の相棒になれるかはわからんが、そうなったら良いな、結鈴」
結鈴「フフ~。秘密だよ、信長様。大福のお礼なんだから」
信長「随分と安く済んだものだ」
他愛もない会話をして信長は笑った。
幼き日からずっと乱世に身を置いた信長が、家臣でもなく家族でもない幼子と並んで歩き、秘密話をしている。
冷たかった眼差しは、ここに来て、いや、舞と再会してからずっと温かさをたたえていた。
結鈴「あ!」
信長「また転ぶなよ。貴様が怪我をすると、騒々しい大人どもがまた騒ぐ」
転びそうになった結鈴の腕を掴んで、もう転ばないようにと手を握ってやる。
自分の子でさえ手を繋いで歩いた経験もないというのに…信長は苦笑した。