第4章 看病二日目 効果のない線引
「私は結構です。味見ついでに少し頂いていますし。
それに謙信様のような偉い方はあまり他人とお食事を共にしないのではないですか?」
宴や野営時は別として、安土の皆を見ていても主人と食事を共にするのは余程近しい人だけだ。
そういうものだと思っていたので、食事を作っても自分は数に入れず、謙信様と佐助君の2人分だけだ。
謙信「俺の隣で酒に酔いしれ、つまみを全部食べたお前が今更なにを畏まっている?」
「もう!酔っ払いの食いしん坊みたいに言わないでください!」
恥ずかしくて顔がかあっと赤くなる。
「あの時はあの時です!物を知らないなりにわきまえているんです。
お気になさらず召し上がって下さい」
なんだかいたたまれなくなって畳んだ風呂敷をとって胸に仕舞う。
「買い物に行ってきますね」
もう一度振り返ると、すぐそこに謙信様が立っていてのけ反る。
(いつの間に!?立ち上がった気配さえ無かったんだけど!)
謙信「駄目だ。腹をすかせて倒れられては適わん。お前の分の椀を出せ」
「朝晩お城でしっかり食べているから平気です」
謙信「では俺が共に食べたいと望めばそうするのか?」
「え…?」
(謙信様が私と一緒にご飯を食べたい?なんで?)
見下ろしてくる整った顔を見ても、何を考えているのか伺い知れない。
(信長様といい、謙信様といい、なんで私とご飯を食べたいなんて言うんだろう?)
断っても駄目だろうなと、あきらめの心境で聞いてみる。
「それは命令ですか?」
謙信「ああ、お前がどうしても買い物に行くと言うなら命令する」
よくわからないけどそこまで言うならと風呂敷を元の場所に戻した。
「ではご一緒します。佐助君の分がなくなってしまうので、少しだけですよ」
渋々お椀と箸を一組出して座る。
謙信様がお椀をとり、手慣れた手つきでよそってくれる。
「あ、ありがとうございます。謙信様はその…、炊事に慣れていらっしゃるんですか?」
恐縮しながらお椀を受け取る。少しだけ、と言ったのにお椀は重い。