第68章 たとえ離れても…
佐助「ここに居る全員、蘭丸君から話は聞いたよ。
君が目撃したのは十中八九、時の神の力だ。ここに居る人たちが心配になったんだよね?」
「うん。『死ぬはずだった人』を私の手で助けられそうになったから時の神が船ごと攫っていったなら…。
だったらここに居る人達はどうなったんだろうって」
すぐに恐怖に飲みこまれなかったのは蘭丸君の存在だ。
『死ぬはずだった人』の蘭丸君が攫われずに傍に居たから、可能性を信じてここまで歩いてこられた。
佐助「時の神の力は、今日のところは船員にしかはたらかなかったみたいだ。
皆無事だから心配しないで」
「うん…安心した。皆、生きててくれて……」
時の神がいつ、どんな時に動くのか。
考えていなかったわけじゃなかったけど、今日、その力を目の当たりにするまで油断していた。
(恐ろしい力だって知っていたはずなのに、長閑(のどか)に暮らしているうちに危機感が薄れてしまっていたんだ)
一番近くにいる謙信様に視線を向けると、酷く傷ついたような表情をしていた。
一心同体とも言える私が心痛で倒れてしまったから、謙信様も胸を痛めているに違いない。
謙信「っ、お前を残してどこにも行くはずがないだろう?」
謙信様は強い。
だけど…時の神の力は人智を越えている。
人の記憶を操作し、雷や海の水さえ自在に操る。
全身がぶるっと震えて鳥肌がたった。
「時の神の力を目の当たりにしたら怖くなったんです。
今回は何の影響もありませんでしたが、次はどうなるのかと。
気がついたら背後にまで迫って、皆…居なくなってしまうのではと…」
最後の方は涙声になり、震えた。
結鈴と龍輝はわからないなりに不安そうにしている。
時の神の力を目撃し、体験している信長様、蘭丸君、光秀さんはわずかに顔を強張らせている。