第68章 たとえ離れても…
「謙信様……?」
居間の様子が静かだったから誰も居ないか、謙信様だけ居るのかと思ったけど…
ガラリと戸が開き、蘭丸君が迎え入れてくれた。
謙信「っ、起きたのか?」
座っていた謙信様が歩み寄ってきて、心配そうに手を取ってくれた。
謙信「大事ないか?」
私の顔を覗き込んでくる謙信様の顔色が白い。
「はい」
首に手をあてられ熱の有無を確かめられた後、抱き上げられた。
「っ」
謙信「熱はないが顔色が悪い。掴まっていろ」
自分だって顔色が悪いのに。
でも過保護な扱いが今は嬉しい。
(居なくなってしまったら……こういうこと、して貰えないもの)
気を失う直前の胸の痛みが蘇った。
「……」
無言で俯く私を、謙信様が憂いの表情で見下ろしてくる。
謙信様が歩を進めると、皆の視線がこちらに注がれた。
結鈴・龍輝「「ママ!」」
人の気配がしなかったのに居間には全員が集まっていた。
私が目覚めるのを待っていてくれたのかもしれない。
佐助君が私の分の座布団を用意してくれたのに、謙信様は私を抱いたまま自分の席に座った。
ふらつきもせずに静かに座ると、自由になった右手で頭を撫でてくれた。
直ぐに結鈴と龍輝が駆け寄ってきて、顔を覗き込んできた。
結鈴「ママ」
龍輝「大丈夫?」
薄茶のまあるい目と、切れ長の二色の目が眼前に迫ってきた。
近すぎて逆に顔がよく見えない。
「ふふ、もう大丈夫」
二人を安心させるために笑いかけ、その後皆に頭を下げた。
「ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。突然のことに頭が混乱してしまって…」
謙信様が手を握ってくれた。
いつもなら人目を気にしてしまうところだけど、今は確かな繋がりとして受け入れた。