第68章 たとえ離れても…
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なんとか里山に辿り着き、家の敷居をまたいだ途端、力が抜けてた。
蘭丸「舞様、しっかり!謙信殿、謙信殿っ!!」
蘭丸君が支えてくれたおかげで倒れ込むのは免れた。
緊迫した呼び声に、すぐ謙信様が出てきてくれた。
(良かった、無事だった)
時の神が動いたなら、ここに居る人達全員、どうなるかわからないから……。
謙信様を失うかもしれない恐ろしさに震えが止まらなかった。
倒れそうな私に謙信様が血相を変えて近づいてきた。
謙信「どうしたっ!?何があった?」
「っぅ、謙信様……」
舌が、唇が痺れたように動かず、言葉が出てこない。
謙信様が目元を鋭くさせた。
謙信「蘭丸、説明しろっ」
蘭丸「……で、……だけど……突然……」
震える私をしっかり抱きしめ、謙信様は蘭丸君の説明を聞いている。
抱き締めてくれる腕は強くて、温かい。
謙信様は生きていると実感できて、やっと落ち着いた。
(怖い)
時の神が謙信様を連れて行ってしまうんじゃないかと…。
少しずつ
少しずつ
近づいてくる波のように
気付いたら…時の波にさらわれて、居なくなってしまうんじゃないか
余りの恐怖にガクンと力が抜けた。
謙信「舞!!」
蘭丸「舞様!?」
二人の声を聞きながら、私の意識はぷつりと切れた。