第68章 たとえ離れても…
目を瞠(みは)る私の前で、海は不自然な動きを続けた。
その船だけに波が押し寄せ、引いていく。
私達の手から攫うように、引き離すようにあっという間に船が遠ざかっていく。
蘭丸「今の………なに?」
私の後ろで蘭丸君がポツリと呟いた。
本当に一瞬の出来事だった。
海に投げ出されて、水面に顔だけ出している人達も驚きの表情で見ている。
男1「見たか!?波があの船だけ襲ったぞ!」
男2「あんな波、見たことねぇ……」
男3「船がもうあんなところに…」
たとえエンジンがついた船があったとしても追いつけない場所まで、船は流されていた。
誰かが怯えた声で叫んだ。
男「何やってんだ、お前ら、早く海からあがれ!また波が人を襲うかもしれんぞ!
海の神様が怒ってるに違いねぇ!!」
『海の神様』と聞いて、ふと嫌な予感がした。
「蘭丸くん、帰ろう」
蘭丸君「うん…」
台所を貸してくれた人にお礼を言って、里山に急ぎ向かった。