第67章 里山での暮らし
結鈴「信長様、ありがとう。怖いけど優しいって本当だね、ママ!」
「んん!?あー……」
返答に困る舞をよそに、結鈴はなおも続けた。
結鈴「またお話聞かせてね。信長様」
信長への警戒心を解いて笑った顔はフニャフニャしていて、舞にそっくりだ。
信長は踵を返して戻って来ると、結鈴の頭に手をやった。
信長「ああ、いつでも来い。だが怪我をしないよう歩いて来い。急ぐ必要はない」
結鈴「うん!ママみたいに着物で走っちゃ駄目なんだよね。
秀吉さんに怒られていたんでしょ?ママ」
信長は『部下に怒られていた』としか言っていなかったのに、結鈴は舞から聞いていた話でその部下が秀吉だとわかったようだ。
光秀「ふっ」
光秀が意地悪く吹き出し、舞は『なんで知ってるの!?』と驚いている。
信長「ふむ…感が鋭い上に、頭もよく回るようだな。
面白い、お前が年頃になったら俺の元にくるか?」
「え!!?だ、駄目、駄目!」
舞が慌て、結鈴は言葉の意味がわからず首を傾げている。
結鈴「いっぱいお話してくれるの?
じゃあ結鈴、大きくなったら信長様のところに…ふぎゅっ!」
結鈴の口を……大きな手が塞いだ。
光秀「言質(げんち)をとられてしまうぞ。
幼いうちにやすやすと将来の約束をするな、結鈴」
いつもよりやや低められた声に、結鈴が『ん?』とふり仰いだ。
抱っこしてくれる光秀はいつもと同じ涼し気な表情で結鈴を見返す。
結鈴「げん、ち?将来の約束??」
たどたどしい言葉に光秀が頬を緩めた。
光秀「まだわらかなくても良い」
信長「結鈴、いつでも気が変わったら来るといい」
明らかなからかいを滲ませ、信長は悠然と去っていった。